MIT、ニッケルヨウ化物で「p波磁性」を発見:次世代エレクトロニクスへの道を開く

編集者: Dmitry Drozd

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、ニッケルヨウ化物(NiI₂)の二次元結晶において、「p波磁性」と呼ばれる新しい形態の磁性を発見しました。この現象は、電子スピンがらせん状に配置され、特定の「キラリティ」(鏡像異性)を持つことで特徴づけられます。この発見は、より高速でエネルギー効率の高い電子デバイスの開発に繋がる可能性を秘めており、スピンエレクトロニクス分野に新たな展望をもたらします。

従来の磁性には、すべての電子スピンが同じ方向を向く強磁性や、隣接する原子のスピンが反対方向を向いて互いに打ち消し合う反強磁性があります。p波磁性は、これら二つの性質を併せ持ち、磁気的なキャンセル効果を持ちながらも、スピンがらせん状に配置されている点がユニークです。このらせん構造は、電気的な制御が可能であり、MITの研究チームは、小さな電圧を印加することで、この磁気らせんの向きを左巻きから右巻きへ、あるいはその逆へと反転させることに成功しました。この電気的なスピン制御は、スピンエレクトロニクスにおける情報処理の基盤となる技術です。

この画期的な発見は、2025年5月28日にNature Communications誌に発表されました。研究チームは、ニッケルヨウ化物の超薄膜フレークを合成し、円偏光を用いた実験により、電子スピンが電気的に切り替え可能であることを実証しました。これは、p波磁性の直接的な証拠としては世界初となります。この技術は、従来の電荷ベースのデータストレージよりもはるかに少ないエネルギーで動作する、高速かつ高密度なメモリデバイスの実現を目指しています。研究者の一人であるQian Song氏は、「p波磁性を持つ材料は、エネルギー消費を5桁削減できる可能性がある」と述べています。

しかし、現在のところ、このp波磁性は約60ケルビン(摂氏マイナス213度)という極低温でしか観測されていません。実用化のためには、室温で同様の特性を示す材料の発見が今後の重要な課題となります。この研究は、MITの研究者とイタリアのミラノ・ビコッカ大学のSilvia Picozzi教授らが理論的貢献を行った、実験と理論の協力によって成し遂げられました。この発見は、コンピューティングの未来を大きく変える可能性を秘めており、エネルギー効率と性能の両面でブレークスルーをもたらすことが期待されています。将来的には、AIの発展に伴う膨大なデータ処理能力の要求に応えるための基盤技術となるかもしれません。

ソース元

  • Il Sole 24 ORE

  • Hardware Upgrade

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